高次元のJacobian(2): ヤコビ行列式を計算する。

By | 2019年8月30日 , Last update: 2022年8月7日

はじめに

前の記事で、次元空間における直交座標系から球座標系への変数変換を行うためのヤコビ行列を求めてみました。

この記事ではヤコビ行列からヤコビ行列式を計算してみます。

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計算の方針を考える。

前の記事より、次元空間における直交座標系から球座標系への変数変換を行うためのヤコビ行列は(1)式で求めることができます。

(1)

また、とおきます。

(1)式の右辺の行列をよーく観察すると、を含む項を持つ成分は第1行及び第2行にのみ現れることがわかります。また、第列については第1行及び第2行以外の成分は0になります。

よって、(1)式の右辺の行列式、すなわちヤコビ行列式を計算する際に第列に沿って余因子展開すると計算が容易になるのではないかと予想できます。

余因子展開してみる。

…というわけで余因子展開を行いますが、その前にこの後の議論の展開の都合上、(1)式の第3行及び第列の成分の具体的な値についても確認しておきます。

行列の第3行及び第列の成分の具体的な値を(1)式に追加すると、以下の(2)式となります。

(2)

列の成分の具体的な値が確認できたところで、(2)式の右辺の行列式を第列にそって余因子展開します。すると、成分及び成分以外第列の成分はすべて0であることから、成分及び成分についての小行列式及びを用いて以下の式で表すことができます。

(3)

(3)式の右辺の第1項及び第2項の総乗の計算時のの値の範囲が微妙に異なることには注意が必要です。

後の式変形を考えると右辺第2項のは総乗の外の方が良いような気もしますが、無理やりまとめてあります。🐼

そこで、成分及び成分についての小行列式を計算します。

成分についての小行列式

(2)式より成分についての部分行列は、(4)式で表すことができます。


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(4)

ここで、を含む式は第1行の成分のみにあり、かつ、第1行の成分はすべてが因数に含まれていることに着目します。

そこで、の行列式を求める際に以下の(5)式のように変形できます。

(5)

(5)式の右辺の行列式の計算の対象となっている行列の成分からを行列式の外に括り出したところで、前の記事の(6),(7),(8)式のと置き換えてみたりしながら改めて行列をよーく見ると、に等しいことがわかります。

そこで、(5)式は以下のように表すことができます。

(6)

成分についての小行列式

次に、成分についての小行列式についても前項と同様の変形ができないか考えてみます。


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まず、は以下の(7)式で表すことができます。

(7)

ここで、を含む式は(7)式右辺の行列の第1行の成分のみにあり、かつ、第1行の成分はすべてが因数に含まれていることに着目します。

そこで、を求める際に以下の(8)式のように変形できます。

(8)

すると、(8)式の右辺の行列式の内部の行列はに等しくなるので、以下のように表すことができます。

(9)

漸化式の導出。


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(6)式及び(9)式を(3)式へ代入すると…

(10)

と変形でき、についての漸化式が導出できます。

ヤコビ行列式の導出。

の場合には、

(11)

とおいていることから、になることに留意しつつ前節の漸化式を繰り返し適用すると、の場合にはは以下のように表せます。
(12)

ここで、(12)式右辺の総乗の中にが登場する回数を検討するためにを一旦固定し、これをと置くことにします。

すると、内側の総乗の因数にを含むものが登場する条件はとなることであり、さらに、からまでの整数値をとりますので、内側の総乗の因数にを含むものが登場する個数は個であることがわかります。

よって、(12)式の右辺はの積で表すことができて、は1からまでの整数値をとりますので…

(13)

に書き換えると…
(14)

となります。

符号は少々気になりますが、そこそこ簡潔な式になりました。😀

ヤコビ行列式と積分計算における変数変換

ここまで計算してきたヤコビ行列式ですが、次元の球(超球)の体積を求める際に使えます。

次元の球(超球)の体積は次元の直交座標系における微小体積要素次元の球(超球)

(15)

にわたって
(16)

ってな感じで積分したいところですが、前の記事の方法で、次元空間における直交座標系から球座標系への変数変換を行うと、直交座標系における領域は球座標系においては次元の超立方体のようなものになりますので、この超立方体のようなものの微小体積要素をとることができそうです。

しかし、は同じものではないので、体積の比を定める必要があります。

ここで颯爽と登場するのがヤコビ行列式の絶対値で、は(14)式の結果を用いると以下の関係で表すことができます。

(17)

(17)式では-1の冪を最初に消去しましたが、においてはであることからとなります(ですが、(17)式の絶対値の内部には登場していないことに注意。)ので、(17)式右辺の絶対値の内部の値もすべて正の値となります。

よって、絶対値の記号は外すことができて、

(18)

となります。

まとめ

次は(18)式を積分… と行きたいところでしたが、具体的な方法はWikipediaに載っていたりしますので、別途そちらをご参照いただけると幸いです。

なお、行列または行列式が面積を取りすぎているために横スクロールが必須となってしまい、スマホではかなり見辛くなっている点につきましては深くお詫び申し上げます。

この記事は以上です。