はじめに
久々に計算用紙に書いたことをそのまま公開するだけの記事をお送りする次第でございます。
課題
課題の設定
ネイピア数$e$の定義式の一つである
\lim_{x\to\infty}\left(1+\frac{1}{x}\right)^x&= e \label{eq:napiersconstantdefinition}
\end{align}
を使うと、$\lambda$が正の実数の場合には、
\lim_{x\to\infty}\left(1+\frac{\lambda}{x}\right)^x&= e^{\lambda} \label{eq:elambda}
\end{align}
であることを容易に導くことができます(本記事末尾の「おまけ」の節参照)。
次に、$\lambda$が負の実数である場合を考えます。
$\mu = -\lambda$とおいて(\ref{eq:elambda})の左辺に代入すると…
\lim_{x\to\infty}\left(1+\frac{\lambda}{x}\right)^x&=\lim_{x\to\infty}\left(1-\frac{\mu}{x}\right)^x \label{eq:elambdamu}
\end{align}
となります。
しかし、$\mu$は正の実数であるため、(\ref{eq:napiersconstantdefinition})式の左辺及び(\ref{eq:elambda})式の左辺の一部または全部に合致する式ではありません。
そこで、「$\lambda$が負の実数である場合の$\displaystyle\lim_{x\to\infty}\left(1+\displaystyle\frac{\lambda}{x}\right)^x$の値を求めること」を課題と設定します。
式変形
前節で定めた課題を解くにあたり、(\ref{eq:elambdamu})式の右辺の式から(\ref{eq:napiersconstantdefinition})式の右辺の式の形を式変形などによって作りだすことを最初の目標とします。
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最初に、(\ref{eq:elambdamu})式の右辺の括弧内を以下のように変形していきます。
1-\frac{\mu}{x} &= \frac{x-\mu}{x} \nonumber\cr
&= \frac{1}{\dfrac{x}{x-\mu}} \nonumber\cr
&= \frac{1}{1+\dfrac{\mu}{x-\mu}} \label{eq:fraccalc}
\end{align}
次に(\ref{eq:fraccalc})式を(\ref{eq:elambdamu})式の右辺に代入し、$x-\mu=u$とおきます。
すると、$x \to \infty$のとき、$u$についても$u \to \infty$となることから…
\lim_{x\to\infty}\frac{1}{\left(1+\dfrac{\mu}{x-\mu}\right)^x}&= \lim_{u\to\infty}\frac{1}{\left(1+\dfrac{\mu}{u}\right)^{u+\mu}}\nonumber\cr
&= \lim_{u\to\infty}\frac{1}{\left(1+\dfrac{\mu}{u}\right)^u}\frac{1}{\left(1+\dfrac{\mu}{u}\right)^{\mu}}\label{eq:firstform}
\end{align}
となります。
(\ref{eq:firstform})式の右辺の積の第1因子には(\ref{eq:elambda})式を適用することができます。また、第2因子については$u \to \infty$の時に$1+\dfrac{\mu}{u}$が1に収束し、かつ$\mu$は定数なので、第2因子全体としても1に収束します。
したがって…
\lim_{u\to\infty}\frac{1}{\left(1+\dfrac{\mu}{u}\right)^u}\frac{1}{\left(1+\dfrac{\mu}{u}\right)^{\mu}}&= \frac{1}{e^{\mu}}\cdot 1 \nonumber\cr
&= e^{-\mu} \label{eq:emu}
\end{align}
となり、
\lim_{x\to\infty}\left(1-\frac{\mu}{x}\right)^x &=e^{-\mu}\quad(\mu \gt 0) \label{eq:emufinal}
\end{align}
となることがわかります。$\blacksquare$
まとめ
(\ref{eq:emufinal})式が成り立つことが示せたので、(\ref{eq:elambda})式は$\lambda \lt 0$の場合でも成り立つことがわかりました。
また、$\lambda = 0$の場合についても$e^0 = 1$と計算できることから(\ref{eq:elambda})式は成り立つので、(\ref{eq:elambda})式はすべての実数$\lambda$において成立することもわかります。
…と、ここまで考察してきたところで、「(\ref{eq:elambda})式がすべての実数$\lambda$において成り立つのなら、それをそのまま暗記しておけばいいじゃん。」と結論づけたくなるところですが、数学系の丸暗記した知識はいずれ忘れてしまうばかりか、丸暗記自体が長続きしないものです。
むしろ、暗記するのはネイピア数の定義である(\ref{eq:napiersconstantdefinition})式だけにしておいて、他の式はすべて(\ref{eq:napiersconstantdefinition})式から導けるようにしておいた方が、
「(\ref{eq:elambda})式がすべての実数$\lambda$において成り立つことを証明せよ。」
のような証明問題にも対応できるので、より意味がある学びになると考えております。
この記事は以上です。
おまけ
(\ref{eq:elambda})式で$u = \dfrac{x}{\lambda}$とおくと、$x \to \infty$のとき、$u$についても$u \to \infty$となるので…
\lim_{x\to\infty}\left(1+\frac{\lambda}{x}\right)^x&=\lim_{u\to\infty}\left(1+\frac{1}{u}\right)^{u\lambda}\nonumber\cr
&=\left[\lim_{u\to\infty}\left(1+\frac{1}{u}\right)^{u}\right]^{\lambda}\nonumber\cr
&=e^{\lambda} \label{eq:elambdafinal}
\end{align}
のように変形することができます。