ディガンマ関数とガンマ関数の商が負の整数に近づくときの極限値を計算してみた。

By | 2019年2月16日 , Last update: 2024年1月11日

はじめに

特殊関数の級数展開についての記事等を読み漁っているうちに、ディガンマ関数とガンマ関数の商の極限値の計算結果だけがさらっと書いてあるのを見かけました。

これがいまいち自明な結果じゃないような気がしたので、計算してみることにしました。

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問題です。

というわけで、早速問題です。

$n$を正の整数とするとき、(\ref{eq:psiGamma})式が成り立つことを示せ。

\begin{align}
\lim_{z \to -n}\frac{\psi(z)}{\Gamma(z
)} &= (-1)^{n-1}n! \label{eq:psiGamma}
\end{align}

なお、$\psi(z)$はディガンマ関数

\begin{align}
\psi(z) &= \frac{d}{dz}\log\Gamma(z) \label{eq:digamma}
\end{align}

である。

実は、(\ref{eq:psiGamma})式は$n = 0$のときでも成り立つのですが、これについては後述します。

サクサクと解いていきます。

まず、分母と分子に登場する$\Gamma(z)$及び$\psi(z)$を$z+n$を含む形で表すことを考えます。なお、$z+n \ne 0$であることに注意しながら計算を進めていきます。

$\Gamma(z)$の場合

$\Gamma(z)$は

\begin{align}
\Gamma(z+1) &= z\Gamma(z) \label{eq:gammainduction}
\end{align}

という関係がありますので、これをさらに$n$回用いると…
\begin{align}
\Gamma(z+n+1) &= (z+n)(z+n-1)\cdots z\Gamma(z) \nonumber \cr
&= \Gamma(z)\prod_{k=0}^n (z+k) \label{eq:gammainductionntimes}
\end{align}

であることがわかります。

(\ref{eq:gammainductionntimes})式の左辺の関数の引数が$z+n$から先にちょいと行き過ぎているのは気にしない方向でお願いすることにして、(\ref{eq:gammainductionntimes})式の両辺を$\displaystyle\prod_{k=0}^n (z+k)$で割ると…

\begin{align}
\frac{\Gamma(z+n+1)}{\displaystyle\prod_{k=0}^n (z+k)} &= \Gamma(z) \label{eq:gammabygammazn1}
\end{align}

となります。(\ref{eq:gammabygammazn1})式の両辺に$z+n$をかけると、左辺の分母から$z+n$が1個だけ消えますので、
\begin{align}
\frac{\Gamma(z+n+1)}{\displaystyle\prod_{k=0}^{n-1} (z+k)} &= (z+n)\Gamma(z) \label{eq:gammabygammazn1zn}
\end{align}

となります。

$\psi(z)$の場合

実はディガンマ関数$\psi(z)$にも

\begin{align}
\psi(z+1) &= \psi(z) + \frac{1}{z} \label{eq:psiinduction}
\end{align}

という関係があります。そこで、これをさらに$n$回用いると、
\begin{align}
\psi(z+n+1) &= \psi(z) + \sum_{k=0}^{n}\frac{1}{z+k} \label{eq:psiinductionntimes}
\end{align}

となります。そこで、(\ref{eq:psiinductionntimes})式の両辺から$\displaystyle\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{z+k}$を引くと、以下の(\ref{eq:psisubsum})式を導くことができます。
\begin{align}
\psi(z+n+1) – \sum_{k=0}^{n}\frac{1}{z+k} &= \psi(z) \label{eq:psisubsum}
\end{align}

(\ref{eq:psisubsum})式の両辺に$z+n$をかけると、
\begin{align}
(z+n)\left[ \psi(z+n+1) – \sum_{k=0}^{n}\frac{1}{z+k} \right] &= (z+n)\psi(z) \label{eq:psisubsumzn}
\end{align}

となります。

組み合わせてみます。


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(\ref{eq:psisubsumzn})式の両辺を(\ref{eq:gammabygammazn1zn})式の両辺でそれぞれ割ると、(\ref{eq:product})式のように計算できます。

\begin{align}
\frac{\psi(z)}{\Gamma(z)} &= \frac{\psi(z)(z+n)}{\Gamma(z)(z+n)} \nonumber \cr
&= \frac{(z+n)\left[ \psi(z+n+1) – \displaystyle\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{z+k} \right]}{\displaystyle\frac{\Gamma(z+n+1)}{\displaystyle\prod_{k=0}^{n-1} (z+k)}} \nonumber \cr
&= \frac{-1+(z+n)\left[ \psi(z+n+1) – \displaystyle\sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{z+k} \right]}{\displaystyle\frac{\Gamma(z+n+1)}{\displaystyle\prod_{k=0}^{n-1} (z+k)}} \label{eq:product}
\end{align}

(\ref{eq:product})式で$z$が$-n$に近づく時の挙動を調べてみます。

分子の第2項は$z+n$をかけていることと、括弧の中は$\psi(1) = -\gamma$($\gamma$はEulerの定数)であることと$\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{z+k}$が有限の値をとることから、$z$が$-n$に近づくときには全体として$0$に近づくことがわかります。したがって分子全体では$-1$に近づきます。

また、分母については$\Gamma(z+n+1)$は$\Gamma(1) = 1$に近づき、さらに$\displaystyle\prod_{k=0}^{n-1} (z+k)$については、

\begin{align}
\prod_{k=0}^{n-1} (-n+k) &= (-1)^n\prod_{k=0}^{n-1}(n-k) \nonumber \cr
&= (-1)^n\cdot n(n-1) \cdots 1 \nonumber \cr
&= (-1)^n n! \label{eq:nfactorial}
\end{align}

となりますので、分母全体としては$\displaystyle\frac{1}{(-1)^n n!} = \displaystyle\frac{(-1)^n}{n!}$に近づきます。

よって、

\begin{align}
\lim_{z \to -n}\frac{\psi(z)}{\Gamma(z
)} &= (-1)^{n+1} n! \nonumber \cr
&= (-1)^{n-1} n! \nonumber
\end{align}

となる。これは(\ref{eq:psiGamma})式と一致します。$\qquad\blacksquare$

まとめ

なんか、どこかの大学院(大学ではありません、念の為)の入試に出そうな問題ですね。

「大学への数学」っていう雑誌がありますが、「大学院への数学」なんていう参考書もあります。

予備校の数学の先生が編集に加わっていて、大学合格後に一冊いただきました。


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微分積分編はこちらで、線形代数編はこちらです。

関数の級数展開をすると、思わぬところで$\Gamma$関数のような特殊関数が登場することがあります。

特殊関数が登場して途方に暮れそうになったときにこの記事を思い出していただけると幸いです。😎

この記事の本編は以上です。

付録

その1: $\Gamma$関数の留数と極

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(\ref{eq:product})式の分母の$z = -n$での極限値

\begin{align}
\lim_{z \to -n}(z+n)\Gamma(z) &= \frac{(-1)^n}{n!} \label{eq:gammaresidue}
\end{align}

は$z = -n$における$\Gamma(z)$の留数になります。また、$\Gamma(z)$は正でない整数$z$において位数1の極を持つことがわかります。

その2: $z = 0$での極限値 [2019/03/02追記]

この記事を書くためにこの記事も見直していたところ、$z = 0$での極限値も確認しておかねばならないことに気が付いたので、追加します。

(\ref{eq:psiGamma})式左辺の分母については(\ref{eq:gammainduction})式の関係が、分子については(\ref{eq:psiinduction})式の関係が直接使えますので、

\begin{align}
\frac{\psi(z)}{\Gamma(z)} &= \frac{\psi(z+1)-\displaystyle\frac{1}{z}}{\displaystyle\frac{\Gamma(z+1)}{z}} \nonumber \cr
&{} \frac{z\psi(z+1)-1}{\Gamma(z+1)} \label{eq:psiGammaNearZero}
\end{align}

$\gamma$をEulerの定数として、(\ref{eq:psiGammaNearZero})式の両辺の極限をとると…

\begin{align}
\lim_{z \to 0}\frac{\psi(z)}{\Gamma(z)} &= \lim_{z \to 0} \frac{z\psi(z+1)-1}{\Gamma(z+1)} \nonumber \cr
&= \frac{0 \cdot -\gamma – 1}{1} \nonumber \cr
&= -1 \label{eq:psiZero}
\end{align}

となります。

これは、(\ref{eq:psiGamma})式の右辺で$n = 0$としたときと一致する。

よって、(\ref{eq:psiGamma})式は$n = 0$のときでも成り立つ。$\qquad\blacksquare$