はじめに
前の記事で、Legendreの多項式の直交条件の証明のための計算を行ってみました。
多項式の直交性の次は陪多項式の直交条件の証明のための計算を行うのが自然な成り行きだろうと思うので、この記事ではLegendreの陪多項式
P_l^m(x) &= \frac{(-1)^m}{2^l l!}(1-x^2)^{\frac{m}{2}}\frac{d^{l+m}}{dx^{l+m}}\left[(x^2-1)^l\right]\label{eq:alp}
\end{align}
の直交条件を示す式
\int_{-1}^{1} P_k^m(x)P_l^m(x)dx &= \frac{2(l+m)!}{(2l+1)(l-m)!}\delta_{kl}\label{eq:orthogonality}
\end{align}
($\delta_{kl}$はCroneckerのdeltaです。)の計算をわかりにくいところ(次項で挙げるものは除きます。)はできるだけ省略しないで計算していきます。
前提となる事実等
(\ref{eq:orthogonality})式の計算には、以下の事実(詳細な計算や証明はこの記事では省略します。)などを使用します。
- 関数
\begin{align}
f_{+}(x) &= (x^2-1)^k \label{eq:xsquareminusone}
\end{align}
及び
\begin{align}
f_{-}(x) &= (1-x^2)^k \label{eq:oneminusxsquare}
\end{align}
の$n$回微分は$x$についての$2k-n$次の多項式であること。 - 特に、(\ref{eq:xsquareminusone})式及び(\ref{eq:oneminusxsquare})式の両辺を$2k$回微分すると以下の式が成り立ち、$x$によらない定数となること。
\begin{align}
\frac{d^{2k}}{dx^{2k}}f_{+}(x) &= (2k)! \label{eq:xsquareminusonediffktimes} \cr
\frac{d^{2k}}{dx^{2k}}f_{-}(x) &= (-1)^k(2k)! \label{eq:oneminusxsquarediffktimes}
\end{align} - Leibnizの公式((\ref{eq:leibniz})式)が成り立つこと。
\begin{align}
\frac{d^n}{dx^n}\left[f(x)g(x)\right] &= \sum_{k=0}^{n}\begin{pmatrix}
n \cr
k
\end{pmatrix}f^{(k)}(x)g^{(n-k)}(x) \label{eq:leibniz}
\end{align} - Wallis積分。
- 整数$n$の二重階乗について、以下の式が成り立つこと。
\begin{align}
(2n)!! &= 2^nn! \label{eq:doublefactorial} \cr
(2n)!!(2n+1)!! &= (2n+1)! \label{eq:doublefactorialandfactorial}
\end{align}
計算してみます。
まずは代入から…
例によってサクサクと計算します。
(\ref{eq:orthogonality})式に(\ref{eq:alp})式を代入すると…
\int_{-1}^{1} P_k^m(x)P_l^m(x)dx &= {\color[RGB]{30,62,138}\int_{-1}^{1}}{\color[RGB]{0,128,0}\frac{1}{2^{l+k}l!k!}}\color[RGB]{30,62,138}{(1-x^2)^m}{\color[RGB]{30,62,138}\frac{d^{l+m}}{dx^{l+m}}(x^2-1)^l\frac{d^{k+m}}{dx^{k+m}}(x^2-1)^kdx}\label{eq:alpinnerproduct}
\end{align}
となります。
ここで、積分変数$x$を含む部分((\ref{eq:alpinnerproduct})式の青色の部分)を取り出し、
I_{kl}^m &= \int_{-1}^{1}(1-x^2)^m\frac{d^{l+m}}{dx^{l+m}}(x^2-1)^l\frac{d^{k+m}}{dx^{k+m}}(x^2-1)^kdx\label{eq:imkldef}
\end{align}
とおきます。なお、$l$と$k$を入れ替えても一般性は失わないので、$l \le k$とします。また、Legendreの陪多項式の定義より$m$は$k$または$l$のうち小さい方以下の値の場合のみ定義されることから(\ref{eq:mkl})式であることがわかります。
m &\le l \le k \label{eq:mkl}
\end{align}
部分積分を利用して変形します。
(\ref{eq:imkldef})式を部分積分を用いて変形します。すると、(\ref{eq:imklpartialoncefirst})式のように変形できます。
I_{kl}^m &= \int_{-1}^{1}\left[\frac{d^{k+m-1}}{dx^{k+m-1}}(x^2-1)^l\right]^{\prime}(1-x^2)^m \frac{d^{l+m}}{dx^{l+m}}(x^2-1)^ldx \nonumber\cr
&= \left[(1-x^2)^m\frac{d^{k+m-1}}{dx^{k+m-1}}(x^2-1)^k\frac{d^{l+m}}{dx^{l+m}}(x^2-1)^l\right]_{-1}^{1} \nonumber \cr
&{} -\int_{-1}^{1}\frac{d^{k+m-1}}{dx^{k+m-1}}(x^2-1)^k\frac{d}{dx}\left[(1-x^2)^m\frac{d^{l+m}}{dx^{l+m}}(x^2-1)^l\right]dx \label{eq:imklpartialoncefirst}
\end{align}
(\ref{eq:imklpartialoncefirst})式の右辺第1項の括弧内には$1-x^2$のべき乗が含まれていて、$x=\pm 1$のときにはこれが0になることから、(\ref{eq:imklpartialoncefirst})式の右辺第1項は0となります。よって、(\ref{eq:imklpartialoncesecond})式が成り立ちます。
I_{kl}^m &= -\int_{-1}^{1}\frac{d^{k+m-1}}{dx^{k+m-1}}(x^2-1)^k\frac{d}{dx}\left[(1-x^2)^m\frac{d^{l+m}}{dx^{l+m}}(x^2-1)^l\right]dx \label{eq:imklpartialoncesecond}
\end{align}
この節のここまでの変形と同様の変形をあと$k+m-1$回繰り返すと、
I_{kl}^m &= (-1)^{k+m}\int_{-1}^{1}(x^2-1)^k\frac{d^{k+m}}{dx^{k+m}}\left[(1-x^2)^m\frac{d^{l+m}}{dx^{l+m}}(x^2-1)^l\right]dx \label{eq:imklpartialoncethird}
\end{align}
と変形できます。
ここで、Leibnizの公式の登場です。
(\ref{eq:imklpartialoncethird})式はLeibnizの公式((\ref{eq:leibniz})式)を利用すると、
I_{kl}^m &= (-1)^{k+m}\int_{-1}^{1}(x^2-1)^k\cdot\nonumber\cr
&{} \left[\color[RGB]{0,192,0}\sum_{p=0}^{k+m}\begin{pmatrix}
k+m \cr
p
\end{pmatrix}\frac{d^{p}}{dx^{p}}(1-x^2)^m\frac{d^{l+2m+k-p}}{dx^{l+2m+k-p}}(x^2-1)^l\color[RGB]{0,0,0}\right]dx\label{eq:imklpartialoncefourth}
\end{align}
と計算できます。
(\ref{eq:imklpartialoncefourth})式の括弧内の部分(緑色で示した部分)で和を計算していますが、和の各項が0以外の値になる条件は(\ref{eq:xsquareminusone})式より、
p &\le 2m \label{eq:pmdouble}
\end{align}
及び、
l+2m+k-p &\le 2l \label{eq:lmkp}
\end{align}
ですので、(\ref{eq:pmdouble})式及び(\ref{eq:lmkp})式を$p$について解いてまとめると、
2m+k-l &\le p \le 2m \label{eq:mklp}
\end{align}
となります。ところが、$k$及び$l$の間には(\ref{eq:mkl})式の関係がありますので、$l \lt k$の場合には$2m \lt 2m+k-l$となるので、(\ref{eq:mklp})式を満たす$p$が存在しなくなってしまいます。
したがって、(\ref{eq:mklp})式を満たす$p$が存在する場合は$l=k$の場合に限られることと、$l \lt k$の場合には(\ref{eq:imklpartialoncefourth})式の和が0になるために、
I_{kl}^m &= 0 \label{eq:lltk}
\end{align}
となることがわかります。
$l = k$の場合についてさらに計算します。
次に、$l = k$の場合について考えます。
前節で検討した通り、(\ref{eq:imklpartialoncefourth})式の和を計算する部分は$l = k$の場合も$p=2m$でない項は0となることに注意して、(\ref{eq:imklpartialoncefourth})式に$l = k$を代入し、$k$を消去すると…
I_{ll}^m &= (-1)^{l+m}\int_{-1}^{1}(x^2-1)^l\cdot\nonumber\cr
&{} \left[\begin{pmatrix}
l+m \cr
2m
\end{pmatrix}\frac{d^{2m}}{dx^{2m}}(1-x^2)^m\frac{d^{2l}}{dx^{2l}}(x^2-1)^l\right]dx\label{eq:imklpartialoncefifth}
\end{align}
(\ref{eq:imklpartialoncefifth})式の右辺の括弧内に(\ref{eq:xsquareminusonediffktimes})式及び(\ref{eq:oneminusxsquarediffktimes})を用いると、
I_{ll}^m &= (-1)^{l+m}\int_{-1}^{1}(x^2-1)^l\begin{pmatrix}
l+m \cr
2m
\end{pmatrix}(2m)!(2l)!dx \nonumber \cr
&= (-1)^{l+m} \frac{(l+m)!}{(l-m)!(2m)!}(-1)^m(2m)!(2l)!\int_{-1}^{1}(x^2-1)^ldx \nonumber \cr
&= (-1)^{l} \frac{(l+m)!(2l)!}{(l-m)!}{\color[RGB]{30,62,138} \int_{-1}^{1}(x^2-1)^ldx} \label{eq:imklpartialfirst}
\end{align}
と変形でき、積分変数$x$が関与している因子は${\color[RGB]{30,62,138} (x^2-1)^l}$の部分(濃い青色で示した部分)のみとなります。
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そこで、上記の因子の部分の積分を計算すると…
\int_{-1}^{1}(x^2-1)^ldx &= (-1)^l\int_{-1}^{1}(1-x^2)^ldx\label{eq:intxsquareminusone}
\end{align}
さらに、$x=\sin t$とおくと、Wallis積分が現れますので…
\int_{-1}^{1}(x^2-1)^ldx &= (-1)^l\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}\cos^{2l}t\frac{dx}{dt}dt \nonumber \cr
&= (-1)^l\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}\cos^{2l}t\cos t\,dt \nonumber \cr
&= (-1)^l\int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}}\cos^{2l+1}t\,dt\nonumber \cr
&= 2(-1)^l\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\cos^{2l+1}t\,dt\nonumber \cr
&= 2(-1)^l\frac{(2l)!!}{(2l+1)!!}\label{eq:intxsquareminusonefirst}
\end{align}
と変形できます。
最後の仕上げ。
(\ref{eq:intxsquareminusonefirst})式を用いて(\ref{eq:imklpartialfirst})式を書き換えると…
I_{ll}^m &= (-1)^{l} \frac{(l+m)!(2l)!}{(l-m)!}\cdot 2(-1)^l\frac{(2l)!!}{(2l+1)!!}\nonumber \cr
&= \frac{2(l+m)!(2l)!(2l)!!}{(l-m)!(2l+1)!!}\label{eq:imklfinalanswer}
\end{align}
となります。
さらに、(\ref{eq:imklfinalanswer})式を(\ref{eq:alpinnerproduct})式に代入し、$k = l$とおいて、(\ref{eq:doublefactorial})式及び(\ref{eq:doublefactorialandfactorial})式を用いて変形すると…
\int_{-1}^{1} \left\{P_l^m(x)\right\}^2 dx &= \frac{1}{2^{2l}(l!)^2}\frac{2(l+m)!(2l)!(2l)!!}{(l-m)!(2l+1)!!} \nonumber \cr
&= \frac{1}{2^{2l}(l!)^2}\frac{2(l+m)!(2l)!l!2^l}{(l-m)!(2l+1)!!} \nonumber\cr
&= \frac{1}{2^{l}l!}\frac{2(l+m)!(2l)!}{(l-m)!(2l+1)!!} \nonumber \cr
&= \frac{1}{(2l)!!}\frac{2(l+m)!(2l)!}{(l-m)!(2l+1)!!} \nonumber \cr
&= \frac{2(l+m)!}{(l-m)!}\frac{(2l)!}{(2l+1)!} \nonumber \cr
&= \frac{2(l+m)!}{(2l+1)(l-m)!}\label{eq:alpinnerproductfinalanswer}
\end{align}
となります。
(\ref{eq:alpinnerproductfinalanswer})式及び(\ref{eq:lltk})式の結果より、(\ref{eq:orthogonality})式を示すことができました。$\qquad\blacksquare$
まとめ
Legendreの陪多項式の定義式((\ref{eq:alp})式)をよく見ると、$(x^2-1)^{\frac{m}{2}}$を因子として含むために、$m$が奇数の場合には厳密な意味での多項式とはなりませんが、(\ref{eq:orthogonality})式では積分の対象となる陪多項式の微分の回数を同じとしているためにそれぞれの式が因子として持っている$(x^2-1)^{\frac{m}{2}}$が掛け合わされるので、多項式の積分計算として計算ができるという寸法です。
計算の結果もLegendreの多項式の直交性を示すための計算(この記事参照。)と同様の方法でできて、かつ結果が比較的簡単な形になることも興味深いところです。
この記事は以上です。